① ワークショップ型安全教育

4-3.訓練や知識不足など,未熟さに対処するための取り組み

4-3-3 状況主義的教育プログラム

① ワークショップ型安全教育

ワークショップ型で安全な実験について議論をさせることは,あらゆる学生実験や授業の中に組み込むことができる,本研究の目的に対する教育効果の高い有用な方法である.しかしながら教育効果の高いワークショップ運営には,学生側の基礎力と指導者側の教育ファシリテーションの知識やスキルが必要であるため,なかなか導入が進まない現状がある.本報告書の3 章に示した指導者側に必要な最低限の理論は3 つの学習理論と,「動機づけ」「メタ認知」「足場かけ」「問いかけ」の各理論であり,応用するための方法はいくつかの汎用的なツール(図3-7)とチームワーク指導である.
以下に,様々な授業や実験に導入可能ないくつかのワークショップを紹介する.

学期,単元などの最初に行うワークショップ

進め方

実験や活動を始める前,自分たちが取り組む内容が明確になった時点で,その活動(実験,実習,演習を含むタスクやプロジェクト)を行うチームでルール作りのワークショップを行う.進め方は次のとおりである.

1. チームでその活動の成功のイメージを共有する.終えた時に得られていること(目標)でも良いし,
最終的に得る成果や制作物でも良い.大切なのは,チームの全員が明確で具体的なゴールを描き共有
することである

2. ブレインストーミングにより付箋紙に「その活動を成功させるために必要なこと」を書き出す.

3. 全員の付箋紙を集め,大判紙上でマッピング,グルーピング,ラベリングを行い,チームのメンバー
で合意された考えを構造化,視覚化する.

※ マッピング:地図作成や対応付けなどを意味する英単語からきている.学習活動では,ブレインストーミングなどにより出てきた要素を,さらに分析する際に使うツールの一種で,分析目的に応じた一定の規則に沿って,要素とその関係性を分析しながら適切な場所に配置して,地図のように視覚化する手法をさす.

4. 完成したマッピングを文章化する.

5. 特に安全に関する項目について,どのような具体的な方策を講じることによってそのルールが守れ
るのか(安全が確保できるのか)について話し合う.

6. 最終的に,自分たちのルールとそれを守る具体的な方法を考えて実行に移すためのアクションプラ
ンを作成する.

7. 活動の途中でそれが実行されているか,またどの程度有効であるか検証を行う.

8. 安全を創出するためのより優れた方法へとブラッシュアップすることをねらって,他のチームを参
考にできるよう発表会や評価会などを行う.ワークショップで作成したマッピング図の例を図
4-35,4-36 に示す.

 

起こったヒヤリハットや事故などの事例から教訓を得るために行うワークショップ

進め方

1. 題材とするヒヤリハットや事故について事実確認を行う(事故記録,写真,イラスト,当事者や目
撃者の経験談などを使う).

2. ブレインストーミングにより付箋紙に「その事故が起こった原因」を書き出す.

3. 全員の付箋紙を集め,大判紙上でマッピング,グルーピング,ラベリングを行い,チームメートの
考えを構造化,視覚化する.

※ マッピングの過程で,学生が気づかない視点については指導者から提示して検討させることが必要
である.例えば,以下の視点などがある.

⃝ モノ,人,機器類を対象とした作業の流れの中に事故の原因はないか
⃝ 経路や動線について検討したか
⃝ リンク解析(連合作業分析)は十分か
⃝ 作業内容を細かい動作に分解してみて問題点はないかを検証したか
⃝ 作業環境のレイアウトの中の原因は検証したか
⃝ 作業者の疲労感など体調不良に対する原因とその背景や遠因は検証したか
⃝ 作業中の不自然な姿勢ややりにくさについて検証したか 等々

4. ラベリングにより出てきた項目を,別の付箋紙に書き移しランキング(順位づけ)を行う.ダイヤ
モンドランキングなどの手法が使いやすい.

※ ダイヤモンドランキング:項目を9つ程度にして,順位付けについて意見を出し合い,チームメンバーが同意した優先順位に従って,最も重要な意見を1つ,2番目に重要な意見を2つ,3番目を3つ,4番目を2つ,最も重要でない意見を1つ選んで右図のようにダイヤモンド型に並べる.

 

5. 発表会等により各チームの結果を共有して,さらに自分たちの考えをブラッシュアップする


6. ダイヤモンドランキングを見直し,話し合ったことを文章化または図式化して教訓とする.

 

授業の最初の5 分を利用して行うミニワークショップ

進め方

1. チームまたは個人で,当日の活動の手順をなるべく具体的にイメージしながら確認する.

2. これまでの経験から自分の癖や特性または当日の体調や心境などをふまえて,作業を安全に行うた
めの自分,またはチーム全員への留意点を付箋に書き出す.付箋1 枚に1項目を,なるべく短いキー
ワードで表すようにする.

3. 作業に関連する場所,例えば作業中必ず目に留まるような目立つ場所に付箋を張り付けておく.

4. 自分の付箋はもちろん,チームメンバーの付箋にも気を配り留意のために声を掛け合う.

5. 作業終了時に付箋をはがし,その作業における安全創出について気づいたことを振り返り,次回や
同様作業に役立つように文章化または図式化しておく.