1-2 高専卒業生に求められる人材像と具体的能力

 高専機構法の目的「職業に必要な実践的かつ専門的な知識及び技術を有する創造的な人材を育成すること」に記された「創造的な人材」とは、どのような人を指すのだろうか。一般的には「製品開発において新しいアイディアを生み出す技術者」と理解されることが多い。筆者は、現代社会において活躍する「創造的な人材」を次のように考える。

(1) 科学技術を担う専門家として自覚と責任と高い技術力をもつ人材

(2) 社会や身の回りの諸問題に対して他の専門分野の人々と協力して、より良い解決策を見出し実行し得る意欲と能力を備えている人材

(3) 社会開発のあるべき方向性について提言ができる人材

 育成すべき具体的な能力については、高専機構が平成18年に出した報告書「高等専門学校のあり方に関する調査(企業3,232件、高専卒業生556件)」で、次のように示された。

 調査の結果、「基礎学力」や「専門性」などで表現される“知識”に関する評価は高かった。また、「誠実さ」「責任感」「実行力・行動力」などで表現される“姿勢・態度”の評価も高かった。これらより、これまでの高専教育が一定の成果を収めているとされている。

 しかしながら、次の能力に関する評価は低い結果となり、卒業生からは高専教育で強化してほしい項目とされている。まず、知識を行動に結びつけるための“スキル”としての「語学力」「コミュニケーション力」「リーダーシップ」「プレゼン力」「対人交渉力」である。次に“社会性”の基礎となる「協調性」「一般常識」である。最後に“創造力”につながる「主体性」や「論理的思考力」である。

 これらの能力は、経済産業省が提示する社会人基礎力とも重なる。一方で、知的財産教育や環境安全教育、持続可能な開発のための教育(ESD)、キャリア教育などの必要性も増してきている。このような教育には、「動機付け」「感性・マインドの醸成」と共に「実践力」が不可欠であり、実技教育に組み込むことが効果的であると考える。