5-5 学びを振り返るための様々なワークシート

 一般的に教育評価の意義と機能は、学習者にとっては、①学習のペースメーカー、② 自己認識の機会、③ 価値の方向性への気づきとされる。また、指導者にとっては、④ 指導の対象を理解する手がかり、⑤ 教育目標や方法の指標であり、組織を管理運営する立場にとっては、⑥ 社会的責任の説明根拠である。

 社会で能力を発揮することを目指すKOSEN型実技教育では、評価は、成績をつける指標としての評定的評価よりもむしろ、学習のプロセスに評価活動を埋め込み、学習者にとっての①、②、③の機能を発揮することが望ましい。また、そのような評価の結果をポートフォリオとすることにより質的評価のデーターとして④、⑤に利用でき、統括的評価として個人の成績に反映させることも可能である。
 そこで、①、②、③を主目的として学習活動を充実させるために、様々な振り返り用のワークシートが重要となってくる。簡単には、白紙を配付して振り返ってほしい項目を伝え記述させ、その内容を共有したりコメントを与えたりするだけでも十分に効果を発揮する。ワークシートを作成する場合は、学習者の発達段階、興味関心、専門性、学習進度と振り返りのタイミング、学習活動の特徴などを考慮して作成しなければならない。以下に、いくつかの事例を紹介する。

5-5-1 振り返りのワークシートⅠ

図5-17 A.1年生前期で使用した振り返りシート

図5-17 A.1年生前期で使用した振り返りシート

 図5-17に、振り返りや記述に不慣れな学生を対象として書く習慣、綴じておく習慣、振り返り意義を理解することを目的としたワークシートⅠに示す。本報告書では、一年生の前期の高専教育導入の授業「ものづくり基礎工学実験」で使用、このワークシートで毎週の授業を振り返る。最初は書くことができなかった学生が前期の終わりには、自己分析ができるようになり記述の分量にも表れてくる。すべてを綴じておくことにより、ポートフォリオとして学習者、指導者の双方が利用できる。

 また、低学年時に振り返りシートを何度も書くことで、自分が何を学び何を理解したか、または理解できなかったかを確認することを習慣づけることにもなり、主体的な学習に不可欠なメタ認知力を育成する効果も期待できる。

5-5-2 振り返りのワークシートⅡ

図5-18 B .3年生プロジェクト型実験の振り返りシート

図5-18 B .3年生プロジェクト型実験の振り返りシート

 図5-18に、授業の意図を理科して努力の方向性に気づき、自分の学習活動に役立てるためのワークシートⅡを示す。本報告書では、1年生でAのような振り返りシートを書いた経験をもつ3年生のプロジェクト実験で開発し使用した振り返りシートである。3年生レベルになると、講義-試験という学び方とは異なる授業であることや、授業の目的や自己分析の意義を理解させた上で記述させることが大切である。記述へのモチベーションを刺激してから記述することが、個々の学びには効果的である。

5-5-3 プロジェクト推進用のワークシート

 図5-19、図5-20にプロジェクト型の実験・実習において取り組むべき課題を明確にして、計画的に進めるためのワークシートを示す、図5-19は、プロジェクトの初心者である低学年用であり、図5-20のワークシートは専攻科1年の社会に役立つものづくりのような、高専教育での最終段階のPBL用である。
 著者らは、このように1年生から専攻科まで、発達段階に応じた一貫性のあるワークシートを作成し、徐々に記述力がついていくように段階的にレベルを上げていった。学生にとっては、毎回、新たに出てくる課題を明確化して記述することが特に難しく、最初は全くできない。しかし、毎回の課題を見出して、その解決のために得るべき知識ややるべき実験を考える事が重要である。
 そのため、ワークシートは受け取りっ放しにはせず、記述内容に対する毎回のフィードバックを行った。指導者チームで足場かけの役割分担をしながら取り組むことで、学生の学びの質の向上をはかることができる。フィードバックによって、指導者チームとの信頼関係が生まれコミュニケーションが取れてくると、学生のメタ認知力や意欲が向上し、主体的な学習者へと変化していくことが実感できた。

図5-19 B .1-3年生用

図5-19 B .1-3年生用

図5-20 C.専攻科生用 プロジェクト進捗状況確認シート

図5-20 C.専攻科生用 プロジェクト進捗状況確認シート

5-5-4 自己評価のためのワークシート

 PBLのような主体性の育成を重視する学習において、「調査スキル」、「議論と合意形成のスキル」、「自己評価スキル」の3つの基礎力が不十分な場合、専門性が高くなるにつれねらった教育効果が得られないことを、3章5節 主体的な学習に不可欠な基礎スキルの訓練において述べた。
 自己評価は、その意義や方法、効果などに学生が納得していないと、まじめに取り組まず形骸化してしまう。また、提出先の教職員チームとの信頼関係も、記述に影響する。教職員が真摯な態度で臨むことが、学生たちの真摯な態度を引き出すことになる。企業や教職員が行っている、実際の社会における仕事での自己評価の事例を紹介することも効果的である。

A. 図5-21は、プレゼンテ-ションにおいて、各チーム内で自分たちの評価基準を決め、それを宣言、公表して自己評価、相互評価するためのワークシートである。自分たちで目指す方向性を設定するので、努力のためのモチベーションが高くなる。各チームの基準もわかるので、低い目標に甘んじるようなことはできないような相互作用も生じる。目標や基準の作成から参加することで、他のチームの基準を尊重しまじめに評価しようとする姿勢も生じていた。

B. 図5-22および図5-23は、チームメンバー間の役割分担に関する相互評価と、社会人基礎力の自己評価、そして自分に点数をつけるとしたら何点でどのようなコメントを添えるかを考えさせるための、自己評価用のワークシートである。
 低学年(1-3年生)は、クラスメイトとの人間関係が成熟していないためか、チーム内の相互評価が公正にできないことが多い。その場合は、図5-22の表に記述させるが、学生同士でかばい合い他者をほめ、自分に厳しく評価する傾向がある。しかし、何度か相互評価と記述の訓練をして高学年になると、公正に評価ができるようになってくる。また、学習活動に真面目に一生懸命参加した学生は、自分にもチームのメンバーに対してもきちんと評価しようと努力する。図5-23の形式にも自信をもって記述できるようになる。専攻科生1年生で行うPBL「社会に役立つものづくり」では、学生の評価と教職員の評価が一致することが多い。このような客観的な視点が育つとPBLのような学びにも効果が表れてくる。

C. 自己目標と自己評価、次への目標設定を行うワークシート
 専攻科1年生のPBL「社会に役立つものづくり」では、1年間に4回の発表会と、2回の教職員チームとの面談を行った。
 まず1回目の中間発表会後に、この授業の目標に沿った自分自身の目標を設定する。2回目以降は、その目標に対する自己評価と新たな目標設定を4回繰り返し、最終成果発表会の後、図5-23、図5-24による1年間の自己評価を行った。
 その自己評価の結果に加え、図5-20のポートフォリオ(専門知識の活用や論理性などの評価)、図5-15②のプレゼンテーション評価(発表会の聴衆全員が評価に参加する第3者評価となる)最終製品の出来栄えなどをもとに、教職員チームとの面談を行い、学びの振り返りをした。最終的には、その結果を学生個々の成績に反映させた。(3-5、図3-21を参照)

図5-21 プレゼンの自己評価シートA

図5-21 プレゼンの自己評価シートA

図5-22 チームのメンバーに対する相互評価が 不慣れな段階(低学年用)の自己評価シートB

図5-22 チームのメンバーに対する相互評価が
不慣れな段階(低学年用)の自己評価シートB

図5-23 チームのメンバーに対する相互評価が公正にできるようになった段階(高学年用)の自己評価シート

図5-23 チームのメンバーに対する相互評価が公正にできるようになった段階(高学年用)の自己評価シート

図5-23 チームのメンバーに対する相互評価が公正にできるようになった段階(高学年用)の自己評価シート

図5-23 チームのメンバーに対する相互評価が公正にできるようになった段階(高学年用)の自己評価シート

図5-24 目標を立て自分の学びを振り返る自己評価シート

図5-24 目標を立て自分の学びを振り返る自己評価シート