Stoving Gymnasium(高校)

2012年10月23日(火)
Stoving Gymnasium(高校)
 

≪高校の概要≫
 

オルボーからバスで30分くらいの郊外、レイビルドにある。
デンマークには、大学進学のための高校、経済やビジネスなどの職業高校、自然科学のみの理系高校、小学校教諭養成のための高校などがあるという。Stoving Gymnasiumは、進学校で成績が上位3分の1くらいの生徒が来ている。
生徒数は約500人、生徒一人に教員が一人の割合で配置され50人ちょっとの先生がいる。生徒のほとんどは中学校(9年生)からストレートに来るが、3分の1くらいはエスタコーレ(10年生)からも入学してくるということだ。

通学路から見える校舎

朝、バス停から校舎に向かう生徒たち

学校は、より良く学ぶための心地よい場を提供

休み時間にはポップ音楽が流れ生徒たちが集う

 

≪校舎の特徴≫
 

まだ薄暗い朝8時。路線バスから厚いコートを着込んだ生徒たちが降りてくる。周囲はなだらかな丘と雑木林で紅葉が美しい。森の中の小道のような通学路、色づいた落ち葉を踏みながら歩いて来たたくさんの生徒が校舎に吸い込まれていく。37年前に建てられたという校舎は2階建て、壁一面の大きな窓から柔らかい光の室内が丸見えの開放的な造りで、日本の高校とはイメージがずいぶん異なっていた。
 

エントランスは2階の回廊に続いていて、建物の中央眼下には吹き抜けの広々としたコモンスペースが広がっていた。テーブルと椅子やソファが配置され、PCを広げている生徒、朝食片手におしゃべりしているグループ、予習のようなことをしているグループというように、始業前のひと時を自由でオープンなスペースで、思い思いに過ごしていた。
北欧デザインのおしゃれな色合い、デザイン、展示物などが、心地よく過ごす空間を提供している。
 

校長のJens NIELSEN先生によると、500人の全校生徒が全員集まれるような広さとなっているということだ。ここでは授業もし、休憩時間に集う場でもあり、カフェテリアとしても使う。驚いたのは、ここで週に2回、全校生徒が集まってクラスパフォーマンスとインフォメーション集会を行うということである。もちろん、インターネットを使えば一斉に情報を流すことができるが、全生徒が一堂に会することに意味があると説明された。

先生役がPCなどを使って生徒役に説明する(1年生社会)

社会科:先生役がPCを使って生徒役に説明する

社会科:バラバラに切った資料を年代順に並べながら説明

社会科:生徒役が答えを書き、先生役の生徒の机に走る

 

≪社会科の授業≫
 

高校1年生、テーマは「中世」、90分の授業である。すでにグループ学習が始まっていた。今日は、半分の生徒が宿題として資料を読んできており先生役を務める、その他の生徒は生徒役である。1グループ4~5人で6グループが教室を出て自分たちの好きな場所-廊下やコモンスペースにおかれたテーブルを囲んで-で、ワークをしている。
 

あるグループは、先生役の2名が生徒役の2名に、PCを使って説明している。別のグループは、資料の内容をまとめた文章を出来事ごとに切り取り、それを年代別に並べながら生徒役に説明していた。また別のグループは、先生役が資料に関する問題を作り、少し離れたテーブルにいる生徒役が答えを書いて、先生役に渡し評価を受けていた。このように各グループが自分たちに合った方法で資料の内容を理解するためのグループワークを進めていた。
 

この後、10分の休憩をとり教室に集まって、全員で今日学んだことを発表し合うシェアタイムを設けているそうだ。
 

◎生徒へのインタビューより
 

「講義と比べてこの学び方はどう?」という問いかけに対して、「説明しなければならないから、理解しながら本を読みわかりやすくまとめるので、講義より学んでいると思う。」「準備には5~6時間もかかって大変だったけど意味はあると思う。」「僕は5時間もかけていないけど、楽しいしよく理解できるので、講義より良いやり方だと思う」「問題や質問を考えるのはそんなに難しくなかった。」というように肯定的な感想ばかりだった。
 

◎教員へのインタビューより
 

[質問] なぜ講義ではなくこの方法なのですか。
[回答] 授業は楽しく、生徒は活動的であるべきです。教師が同じ教え方を繰り返し、生徒はただ受け取るだけという授業では何も身につかないと考えます。普段から、90分の授業中で先生が一方的に話すのは15分~20分程度であり、その間さえも生徒は自由に質問をし、それに答えながら進めているので、ほとんど生徒が主体の授業です。
 

[質問] 生徒に活動的に学ばせるための工夫は?
[回答] 授業はグループワークを中心に進めますが、例えば次のような色々な手法を取り入れています。
(1)グループワーク
 4~5人でグループを作り様々な活動をさせます。自分たちで自由にグルーピングすることもあれば、教員がグループメンバーを指名することもあります。
(2)ワークシート
例えば、「ローマとの戦争」では、A4プリントの上部に重要な事件があった年号を並べておき、その下にバラバラに書いてあるいくつかの出来事を年号に当てはめていきます。短時間に正解を出した生徒が勝つ、というようにゲーム感覚で競わせながらワークシートを仕上げます。生徒は夢中になり、集中して取り組む方法です。
(3)カードゲーム

学びを活性化するために作ったアメリカ大統領選の教材


例として、ちょうど今やっているアメリカの大統領選をテーマとした授業を紹介しましょう。このようにオバマとロムニー候補の顔写真をカード化し、その下にこれもカード化した各々の主張を項目別に並べていって、マトリックスを完成させます。
世界で最もパワフルな一人であるオバマ大統領には関心も高く、テーマはエキサイティングです。去年はデンマークの国会議員の選挙があり、もっと時間をかけて学ばせました。デンマークのこれからの国の在り方や外交を考える視点や知識が身につくと考えています。
 

[質問] 学生をアクティブにする授業づくりの難しいところは?
[回答]
(1)集中させよく考えさせることが一番難しいです。そのために、特にテーマは大切で、毎年同じテーマを使うのではなく、その時々の時事問題をバランスよく取り入れるようにしています。
(2)また、理解の早い生徒と遅い生徒を両方満足させることが難しいです。しかし、レベル分け授業はしません。両者でグループを結成し教え合うように促します。わからない人にわかるように工夫して教えるということは、理解の早い生徒にとっても、とても重要なことなのです。

数学:教員は問いかけて学びをファシリテート


 

◎数学の授業
 

高校1年生、テーマは「数式の展開」、3~4人のグループがタブレットやPCを取り囲んで協力して問題を解いていた。数学の授業はグループワークが多いという。
 

◎先生へのインタビューより
 

[質問] なぜ、グループワークなのですか。
[回答] 数学が得意な生徒と苦手な生徒、アクティブな生徒と静かな生徒を同じグループにすることが大事です。得意な生徒にはどんどん難しい課題を与え、一方、苦手な生徒に教えることもさせる、このようなグループワークは両方にとって得るものが大きいのです。数学では、できる生徒の中にはグループワークを嫌がる者もいますが、協力する態度やスキルは不可欠なので、あえてそうしています。やはり、高学年になって修了試験が近づくと一人でやりたがる生徒が増えます。しかしグループ学習を減らすことはしません。今のデンマークでは競争よりも協力して結果を出す力が重視されています。グループワークと講義をバランスよく配置して、このような様々な能力を育成するために、それぞれの科目の先生が授業に工夫を凝らしているのです。
 

≪英語の授業≫
 

2年生17人、今日の授業は、アメリカ文化に関する文章の理解がテーマだ。8ページくらいの少し長い、難しい語意が使われている文章を読んでいる。読んだ後、グループ学習で内容を理解した後、先生が出す課題の答えをまとめグループで発表するという。
今日のグループのメンバーは先生が指名して、できる生徒2名と、まあまあの生徒2名とできない生徒1名でグループを作っている。できる生徒は教えることによってさらに理解が深まるという。いくつか出す問題を皆が解くが、各グループはその中の一つの問題について発表すると説明された。
 

◎先生へのインタビュー
 

[質問] この授業で工夫していることは何ですか?
[回答] 生徒を活動的に学ばせるために、いろいろ工夫しています。例えば次の通りです。
(1)グループを回りながら、問いかけや促しを行います。
(2)また、生徒の理解度によって授業の進度を調整しています。本当は今日は各班の解答をプレゼンさせようと予定していましたが、一週間、遅らせることにしました。授業計画は、生徒の理解の進み方を予測して立てていますが変更することもよくあります。
(3)様々な規模のグループワークをしています。例えば、普通は5人ですが、2人でさせることもあります。その都度、適正な規模のグループ学習をさせています。
(4)教員の代わりに生徒に板書させることもします。
(5)互いに文章を読み合う、聞きあうということもさせています。
 

◎生徒へのインタビューより
 

[質問] このような学び方で良いと思うこと、ダメだと思うことなど感想を聞かせてください。
[回答] 
「生徒同士話し合うことで多様な視点から理解できるのでとても良いです。」
「より自分が学んでいる実感があります。」
「たまに、疑問が出すぎて混乱することがあり、そういう時はしんどいと思います。」
「皆友達なので誰とグループになるように指示されてもかまいません。」
「英語は小学校の3年生からやっていて、よくわかるので好きです。」
 

◎先生方との意見交換から

校長のJens NIELSEN先生


 

日本では、勉強というものは辛いものである、という印象が強い。がここでは学ぶことは楽しいことだと生徒たちが感じていることが、その雰囲気から伝わってきた。
「生徒たちは皆、楽しそうですね」と教頭先生に言うと、「決して楽しむことを優先しているのではありません。今の時代、知識はいつでもどこでも得られるのだから、学校で学ぶべきことは、新しい革新的な考えを生み出すことと、知識をどう使うかということです。」という答えが返ってきた。
そういえば、勉強でどんな時に楽しいと感じたかを思い出す。やはりまず、わかると楽しい、友達の役に立ったり助けてもらったりすると楽しい、教えてもらったことが他の場面で応用できたときに楽しい、自分なりに説明できて‘あぁそういうことだったのか!’と、ストンと納得できたときに楽しい…このような学ぶ楽しさは、グループ学習の時に体験する場面が多いような気がする。
 

日本では、中学校や高校になると、本人も親も先生も受験が気になる。1点でも多く取り一人でも追い抜かなければ合格できないかもしれないから、とりあえず暗記することに必死になる。受験日のコンディションを最高にするため数か月前から予防接種を打つなど最大限の努力を強いられる。受験一週間前ともなるとストレスは最高潮だ。こんなストレス耐性や必要な根性(?)などは別の機会に鍛えることができる。受験が、感受性豊かなミドルエイジから、いかに本来の学ぶ楽しさを奪っているかを考えると、害の方が大きいと思う。
 

デンマークの高校生は、3年間の成果が反映される卒業時の成績で大学を選ぶ。その成績には、高校時代の筆記試験の結果に加えてプロジェクト学習のパフォーマンス評価も入る。卒業試験は筆記試験と口頭試問の2種類がある。科目によっては文部省指定の筆記試験があるが、6時間かけて行う口頭試問はその高校の教員が問題を決め評価するという。例えば、社会科ならば新聞の内容から設問しそれに関する課題を出す。生徒はグループでその課題を分析し解答を作らなければならない。教員は、一人ひとりの言動から筆記試験ではわかりにくいプロジェクト学習で身についた能力を測るということだ。
 

一般的に社会では一部の資格試験を除けば、受験のような評価のされ方はしない。もっと総合的な能力の評価によって、仕事の役割などが決められている。
評価のされ方によって、人の学びが決まってくるという単純な教育理論がある。一生涯受けることがないような評価の方法とそれに対応する能力を、学生時代に身につけなければならない日本の生徒は、デンマークの生徒に比べてハンディを負っているような気がした。