② 危険予知トレーニング

4-3.訓練や知識不足など,未熟さに対処するための取り組み

4-3-3 状況主義的教育プログラム

② 危険予知トレーニング

 

 

中央労働災害防止協会「KYT4 ラウンド法」を応用した危険予知トレーニング

«KYT とは»
危険予知訓練は,作業や職場にひそむ危険性や有害性等の危険要因を発見し解決する能力を高める手法であり,危険(キケン,Kiken)のK,予知(ヨチ,Yochi)のY,トレーニング(トレーニング,Training)のT をとって,KYT と呼ばれる.
危険予知訓練は,もともと住友金属工業で開発されたもので,中央労働災害防止協会が職場の様々な問題を解決するための手法である問題解決4ラウンド法と結びつけ,さらにその後,旧国鉄の伝統な安全確認手法である指差し呼称を組み合わせた「KYT4 ラウンド法」としたものが標準とされている.中央労働災害防止協会によると,危険予知訓練は,「職場や作業の状況のなかにひそむ危険要因とそれが引き起こす現象を,職場や作業の状況を描いたイラストシートを使って,また,現場で実際に作業をさせたり,作業してみせたりしながら,小集団で話し合い,考え合い,分かり合って,危険のポイントや重点実施項目を指差唱和・指差呼称で確認して,行動する前に解決する訓練」と説明されている(参考:JISHA 中災防のWEB ページより).

進め方

進め方は,以下に示す問題解決の4つの段階(ラウンド)を経て段階的に進めていく.

1ラウンド 現状把握(どんな危険が潜んでいるか)
2ラウンド 本質追究(これが危険のポイントだ)
3ラウンド 対策樹立(あなたならどうする)
4ラウンド 目標設定(私たちはこうする)

これを応用して,学生を対象にクラス全体で授業として実施するための教育プログラムとして,A. 学生配布用の教材,B. 教職員用参考資料(中央労働災害防止協会「KYT4 ラウンド法」のマニュアル),C. 教職員用台本を作成した.準備物は,大判紙,名刺大の付箋紙3 色,フェルトペン3 色,黒のサインペンである.

A. 学生配布用の教材 p1 〜 p5 (図4-39 〜 4-43)
B. ワーク進め方(指導用) (図4-44)
図4-38 は,実際の様子である.

 

« 教育効果を上げるための指導上の留意点»

認知主義的な教育プログラムとして,学生の指導上,特に気をつけるべきことは,図4-45 のとおりである.多くの問題解決における問題点について,学生は「問題=ダメなこと」と捉えがちだが,「問題=変えるべき状況」であることを説明するようにした.問題をダメな事実として挙げるとその後の解決策を考える場面でつまづいてしまう.

例えば,「図で危険なところは?」という問いに対して,「高所で作業している」という“ 事実” で答えると解決策は「高所で作業しない」となり問題解決の幅が狭まる.しかし,この問いに対して「バランスを崩してガラス窓に突っ込みそうだ」という“ 状況” で答えるようにすると,多くの解決策が考えうる.すなわち,困っていることや不適切なことを“ 状況や状態=移り変わる物事のその時々のあり様,様子” として捉え言葉として述べることができるような訓練とすることが重要である.以上のように指導方法に少し工夫をこらすと,KYTはその訓練として良い機会となる.

このようなセンスを磨く機会はあまりないようで,学生は驚くことが多かった.日頃の生活では,そもそも危険な環境からあらかじめ遠ざけられていることが多い.そのうえ,「・・・をしてはいけない」とか「マニュアルに従うように」という指導を受けることの方が多いため,危険予知のセンスが不必要となり鈍化していると感じる.このようなKYT トレーニングによって,現代社会で体得しにくい危険予知のセンスを身に着けさせることが重要だと思われる.

図4-44 のKYT ワーク進め方(指導用)のような時間が確保できないときには,図4-23,4−24 のような,KYT の簡易版を行い,その場で簡単なグループを組んで話し合わせる方法もある.この場合も,前述した「問題を状況で表す」ことに対しての指導は必要である.