カナダのマクマスター大学医学教育から広がった一般的なPBLとデンマークの工学分野で独自に発生したオルボーPBLモデルとを、アクティブ・ラーニングや、PBLと混同されやすい卒業研究と比較して表2-4に示した。医学教育から発展した一般的なPBLは、問題解決に取り組む過程で必要な知識を再構成しながら獲得することに有効である。構成主義の認知理論に基づいており、学習者個々の認知活動や個の能力の育成を中心に扱ってきた。どのような専門分野の基礎ともなり得、幼稚園児からも適用可能である。一方で、オルボーPBLモデルは、現実の問題解決に取り組む過程における協働による新しい知の創出を目的としている。イノベーションはもはや個の知識の上にはありえず、情報社会やチームメンバーに散らばって存在している知識の相互作用によって、新しい知が生み出されるという状況主義的な理論背景で成り立っている。
このような特徴より、これからの高専教育には、1~4年生の知識の効率的習得を重視する工学基礎教育には一般的PBLが、専門性が高まる5年生~専攻科生にはデンマーク型PBLの方が適合していると考えられる。
特に高専教育への導入に対する優位な点は次の通りである。
①高専教育の目的である、グローバル人材やイノベーション人材の育成、技術者に必要な能力(例えばチームワーク力や周囲との調整力、問題解決力)などと、デンマーク型BPLの目的とが一致している。
②産業界の問題やものづくりなどをテーマとするオルボーモデルは、産業界とのつながりが深い高専に導入しやすい。
③教育熱心な教職員が多く、PBLの教育学的基礎理論の理解がされやすい。
④機構のガバナンス機能は、全てが国立大学であるデンマークの普及のプロセスを参考にすることができる。
⑤コミュニケーションが苦手で引っ込み思案な国民性や、省資源国でイノベーションを重視する国状、超高齢化社会の課題など、我が国とデンマークとの類似点や参考にすべき点が多い。
⑥激烈な大学受験を体験しなくてよい高専生は受験脳になっていないためPBLが受け入れ易い
⑦基礎スキルの訓練が重要なPBLは、15歳から段階的教育ができる高専に有利である。
表2-4 二つのPBLとアクティブラーニング、卒研との比較
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Active Learning
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一般的なPBL
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オルボーPBL
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卒業研究
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目的 |
・学び方を学ぶ ・知識の再構成・活用 |
・社会的文脈での知識の効率的獲得 | ・協働による新しい知の創出 | ・卒業レベルを満たす結果を出す | |
特徴 |
学生は活動的 ・活発な認知活動 ・内発的動機づけ |
・個の能力向上 ・学際的 |
・社会変革が視野に ・学びの環境重視 ・成果は論文に ・学際的 |
・学術的専門性 ・知識・スキル・姿勢 |
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指導者 |
・発達の最近接領域や認知領域タキソノミーをふまえた指導者 | ・チュ-タ- ・コ-チ |
・スーパーバイザー | ・研究の熟達者 (認知的徒弟制) | |
分野 |
全分野、全レベル | 医学から全分野へ | 工学 | 日本の高等教育 | |
社会的ニーズ |
60年代世界教育改革(新教育・進歩主義) | 高度・細分化した専門知識活用人材 | イノベ-ション人材グロ-バル人材 | 卒業判定 | |
進め方 |
多種多様 | 7段階など | プロジェクトサイクル | 個人に合う直接指導 | |
カリキュラ |
科目横断型 | 統合・ハイブリッド型 | ハイブリッド型 | 総括的 | |
評価 |
機能 |
アセス・フィ-ドバック | アセス・フィ-ドバック | アセス・フィ-ドバック | 統括的・個人のみ |
方法 |
非 筆記試験型 | 多様、個人対象 | 口頭試問と振り返り、チームが対象 | 発表会、論文 |