現代の教育思想の潮流は、18世紀にルソーによる「子どもの発見」以降、ペスタロッチ、ヘルバルト、フレーベル、シュタイーナーらが現れ、作られていった。20世紀初頭のドイツの社会学・経済学者マックス・ウェーバーによると、以下のような考え方は、近代の西洋以外の文化圏では見られなかった思想だという。
①個としてこどもをみること
②個の内面性を重視すること
③教育を合理的な技術と結びつけること
④教育を社会進歩と結びつけること
19世紀末には、アメリカで「進歩主義教育(子どもから束縛を取り除き、個性的・創造的に成長させようとする教育理念に基づいた新教育運動)」が発生し、欧米では「新教育運動(‘児童から’という合言葉に象徴される児童中心主義の多様な教育・文化運動)」が始まった。
デューイ(Dewey, J.)が説いた進歩主義教育の、「環境への主体的な働きかけを通して知性や知識を身につける」という理念は、PBLの根幹ともいえる「自ら体験すること」の理論的背景となっている。すなわち、従来の座学による系統的教科学習とは対照的な、五感のすべてを使って対象に働きかける学習が出現したのである。
その後、キルパトリック(Kilpatrick, W.H.)は、①計画やアイディアの具体的実現、②美的経験の享受、③知的問題解決、④技能や知識習得の4つの学習活動からなる「プロジェクトメソッド」を1918年に考案し、1920年代には広く活用された。教育におけるプロジェクト手法の創始者といわれるキルパトリックは、次のように述べた。学生は熱心に取り組んだ時ほど深く学び、プロジェクトワークの過程で起こる「学生自身が選択する学び」「体験からの学び」「学生中心の学び」は、好奇心や自己決定、熟達という人間的特性をうまく利用している。現代のProblem/Project-Based Learningの基本原理であり、具体的実践方法の指針ともいえる。
Problem-Based LearningとProject-Based Learningは、現在では明確に区別されている。両者の歴史的背景を2章2節に、デンマークとアジア諸国の導入状況を2章3-5節に、教育学的な違いを2章6節の図と本文中に示す。本報告書でPBLと表記してある場合は、両者を含む場合や状況に応じて両者を組み合わせている場合である。