これまで述べてきたように、社会から高専教育への期待は、社会の激変に伴い50年前の創設時とは大きく異なってきている。また文科省主導の答申では“主体的に考える力”や“生涯にわたって学び続けていく力”の育成が、大学教育や高専教育に求められている。
これまで高専教育で行われてきたPBL実践は、小グループ学習であることや課題解決に取り組むという「型」を模倣することに始終している事例が多かった。今一度、講義やテキスト型実験のような伝統的な教育とは根本的に異なるPBLの教育学的特徴に立ち戻り、チーム活動の質を問いたい。我々は、PBLによってコミュニケーション力やチームワーク力が育成された、創造性が刺激された、というレベルで満足していたが、それらはPBLの最終的な目的ではなく、目的への一段階に過ぎないのである。何のためのコミュニケーション力でありチームワーク力かということが重要だ。協力して仕事をすることが社会人として必要だから、などと狭義に捉えてはいけない。コミュニケーション力やチームワーク力は、情報を収集、選択、活用、発信のための必須スキルであり、多様性から生まれ出るイノベーションを目的とした議論や交渉や合意形成のための基礎的な能力なのである。
15歳からの一貫教育を強みとする高専では、デンマークの小・中学校で行っている社会の中で生涯学び続けるために必要な、対話、交渉、対立への対応、合意形成、調査、情報発信などの基礎能力と工学の基礎知識(概念や学問体系の枠組み)を、低学年から訓練できる。その上で、高学年で社会的課題に取り組めば、専門的な知識や思考を主体的に獲得し、組織やチームで活き活きと活躍し新しい知の創出を担う人材が育成されると考える。