20世紀の社会の激変と共に、教育心理学や認知理論が発展したが、教育評価理論もまた大きな変遷を経てきた。教育評価が変わらなければ教育そのものも変わらないとされる。言うまでもなく、評価の方法や機能が学生の学び方やモティベーションに与える影響は大きい。学生は評価によって、努力の方向性を見出し、学び方を工夫し、次のより深い学びへの動機づけとするからである。このように、学びそのものを変えるほどの影響をもつ教育評価を、KOSEN型実技教育ではどのように考えるべきだろうか。
1900年代の初期は、「教育測定の時代」とよばれ、学力を科学的かつ客観的に測定するための、厳密で測定誤差の少ない信頼性の高い方法が研究された。伝統的な口述試験は評価側の主観が誤差として結果に含まれるとされ、標準学力テスト、いわゆるペーパーテストの様々な手法が開発され導入された。こうして集団の平均点を基準にした点数の良し悪しで学力を判断する、相対的評価が確立した。90年代の中期になると、「教育評価の時代」が訪れる。教育目標という絶対的な価値基準に照らして評価する方法が開発された。それまでの客観的学力評価では、測定が容易な「知識・理解」中心に偏った評価がなされる傾向があった。すなわち、「思考」、「判断」、「表現」、「技能」、「関心」、「態度」、「意欲」などの観点から総合的に学力を捉えようとするとき、客観的学力テストのみでは妥当性がないという結果となる。教育評価の時代には、このような妥当性の低い一面的な測定に基づく偏った評価を、妥当性の高い評価へと改善する取り組みがなされた。90年代の後期には、教育評価の意味を根本から問い直す新たな動きが生まれている。それは、「それまでの教育評価は、評価が指導に生かされず、結局のところ学力テストによって児童・生徒を選別するという働きしかなしえず、結果として教育の機会均等の理念や人権尊重の精神に反しているのではないか」という反省的観点に立ったものである。学習者一人ひとりの個性や人権を尊重した評価であるべきで、それが学びに反映され学習支援にも生かされるものでなくてはならないということが認識されてきたのである。
一般的に教育評価の意義と機能は、学習者にとっては、① 学習のペースメーカー、② 自己認識の機会、③ 価値の方向性への気づきとされる。また、指導者にとっては、④ 指導の対象を理解する手がかり、⑤ 教育目標や方法の指標であり、教育を管理運営する立場にとっては、⑥ 社会的責任の説明根拠である。
著者は、通常の授業における評価として、①~⑤を目的とし、学習のプロセスに組み込む評価として種々の評価シートを開発した。認知主義的な学習には多様な評価基準を設けた。また知識習得と、基礎スキル習得は、3-7 どちらが先か、3-6 教育評価の意義と方法状況主義の特徴が強い学習には、参加そのものへの評価や、認知活動に関する質的、量的評価も行うことが望ましいと考える。評価主体別には、自己評価、指導者評価、学生間相互評価、企業や地域の方からの評価を行った。必要に応じ、診断的評価、形成的評価、総括的評価を行った。方法は、ジャーナル形式、ポートフォリオ形式、ヒアリング、振り返りアンケートなどから、適切なものを組み合わせた。
図3-24に③と④を目的とした評価結果の一例を示す。また、図3-25に②と⑤を目的とした評価結果の一例を示す。